電子処方箋 用法マスタ改訂のご案内

なぜ改訂するのか/何が変わるのか/何をすればよいのか

経過措置期限: 2026年7月31日

1. なぜ用法マスタを改訂するのか

電子処方箋管理サービスでは、薬の飲み方・使い方を「用法コード」で記録します。 病院が発行した処方を薬局が正しく読み取るには、双方が同じコード体系を使い、 同じ意味で解釈できることが不可欠です。

しかし、現行の用法マスタ(旧マスタ)には構造上の課題がありました。

現状の課題(旧マスタ)

  • コードが多すぎる — 約 2,860 件。似た用法が別々のコードで存在
  • 表記が揺れている — 「朝食中」と「朝食事中」が別コード
  • JAMI標準用法規格との乖離 — 電子処方箋のモデル事業で標準用法コードとの食い違いが発覚し、施設間で混乱が発生
  • 自由記載コードの乱用 — 該当コードがないためダミーコードに独自の用法を設定 → 施設ごとにバラバラ

改訂後のゴール(新マスタ)

  • 約 1,800 件に整理 — 類似コードを統合し、1コード=1つの意味に
  • JAMI標準との整合 — 学会・業界団体の提言を反映し、標準規格に準拠
  • 二層構造へ移行 — 用法コード(分類)+ 用法補足レコード(詳細)の組合せで情報を記録
  • 標準コードで共有 — どの施設でも同じコードが同じ意味
改訂の経緯: 日本医療情報学会(JAMI)が2023年5月に「電子処方箋の用法マスタに関する提言」を、 医薬品情報標準化推進協議会が同年3月に厚労省へ意見書を提出。 標準用法コードと電子処方箋用法コードの不整合が医療安全上のリスクとして指摘され、 関係団体との協議を経て今回の改訂に至りました。
ポイント: 用法マスタを設定しておらず、すべて 0X0XXXXXXXXX0000(自由記載コード)を使用している場合は、 本改訂に伴う影響はありません。ただし、医療情報の電子的な共有・交換のためには、 標準コードの設定が重要です。

2. 新マスタの設計思想 — 二層構造への移行

今回の改訂の本質は、単なるコード数の削減ではありません。 旧マスタの「すべてをコード名称に詰め込む」列挙型から、 新マスタの「コード(分類)+ 補足レコード(詳細)」の二層構造への設計転換です。

新しい情報の記録方法

第1層: 用法コード(分類・パターン)
例: (特定の条件の場合) 点眼
→ 投与経路と大まかなタイミングパターンを表す
第2層: 用法補足レコード(具体的な条件・詳細)
例: 頓用の条件指定 → 「疼痛時」
→ 具体的な使用条件・タイミングを構造化された補足フィールドに記録

旧マスタでは「疼痛時 点眼」「発熱時 点眼」「発作時 点眼」がすべて別のコードでした。 新マスタでは、投与経路は用法コードで、具体的な条件は補足レコードで記録します。 これにより、コードの組合せ爆発を防ぎつつ、臨床情報を保持できます。

補足レコードが必要になるケース

補足フィールド対象記録例
頓用の条件指定 「(特定の条件の場合)」「必要時」「適宜」のコード 「疼痛時」「発熱時」「血糖上昇時」等
投与時刻 「決まった時刻に」のコード(時刻指定型) 「8:00」「20:00」等
部位 外用の貼付・塗布・点眼等 「左眼」「右肩」等
切替時の注意: 「朝食前」「起床時」等の主要な食事タイミングコードは新マスタにも標準コードとして残っています。 ただし、汎用コード(「決まった時刻に」「特定の条件の場合」等)に移行するケースでは、 用法補足レコードへの記録が正しく行われるよう、システム設定の確認が重要です。 コードだけを差し替えて補足レコードの設定を怠ると、具体的な服用タイミングや条件の情報が 処方箋上から欠落します。特に以下の薬剤は食事タイミングとの関係が臨床上重要です:
  • ビスホスホネート製剤 — 起床時・空腹時の服用が必須(標準コードあり)
  • 速効型インスリン分泌促進薬 — 食直前の服用が必要(標準コードあり)
  • α-グルコシダーゼ阻害薬(ボグリボース等)— 食直前の服用が必須(標準コードあり)

3. 数字で見る改訂の規模

2,862
旧マスタの用法コード数
1,803
新マスタの用法コード数
37%
削減率
削除されるコード
2,470 件
旧マスタから廃止。新コードへの移行が必要
新規追加コード
785 件
別表4: 注射565件を中心に新設(内服140件、外用52件、注入28件)

削除コードの移行先の内訳

明示的なコード置換
1,634 件
旧コードに対応する新コードが指定されている(1対1の名称修正+多対1の統合)
ダミーコード+テキスト記述
836 件
新マスタに該当コードなし。自由記載で対応

4. 具体的にどう変わるか

パターン A: 表記統一(1対1の置換)

名称の揺れを解消し、意味を明確化します。

旧コード旧用法名称新コード新用法名称
1011000900... 1日1回朝食 服用 1011000600... 1日1回朝食事中 服用
1011009000... 1日1回昼食 服用 1011006000... 1日1回昼食事中 服用
1011090000... 1日1回夕食 服用 1011060000... 1日1回夕食事中 服用

「朝食中」は「朝食の最中に」なのか曖昧 → 「朝食事中」に統一することで意味を明確化

パターン B: 汎用コード+補足レコードへの移行(多対1)

細かすぎるタイミング指定を汎用コードに集約し、詳細は用法補足レコードに記録します。

旧コード(すべて別々のコード)新コード(1つに統合)+ 補足レコード
6 件 統合 1日2回 起床時と朝食 服用 1032Z000... 1日2回 決まった時刻に 服用
+ 補足レコードに具体的な時刻を記録
1日2回 起床時と朝食直前 服用
1日2回 起床時と朝食直後 服用
1日2回 起床時と朝食 服用
1日2回 起床時と朝食2時間後 服用
1日2回 起床時と朝食 服用

パターン C: 頓用の条件統合

症状×投与経路の全組合せコード(旧マスタの最大の膨張原因)を汎用化します。

旧コード(症状ごとに別コード)新コード+ 補足レコード
47 件 統合 疼痛時 点眼 2H50Z000... (特定の条件の場合) 点眼
+ 頓用の条件指定(必須)に具体的症状を記録
発熱時 点眼
発作時 点眼
(ほか 疼痛・頭痛・歯痛・腹痛…計47症状)

5. この改訂で得られる効果

🏥 ⇄ 💊

施設間の情報伝達が正確に

JAMI標準用法規格との整合により、病院・薬局間で 同じコードが同じ意味で解釈される。 モデル事業で発覚した混乱を是正。

🔒

患者安全の向上

「1コード=1つの意味」が保証されることで、 ダミーコードに独自の意味を持たせる運用がなくなり、 意図しない用法の取り違えを防止。

📊

データの二次利用が可能に

標準化されたコードは、処方動向の分析・医療政策への活用・ 臨床研究でのデータ集計など、幅広い二次利用の基盤となる。

⚙️

コード管理の合理化

コード数が37%削減。「疼痛時の浣腸」等、 現実にはほぼ使われない組合せコードを整理し、 類似コードの選択ミスも減少。

6. 対応スケジュール

2025年7月〜10月
周知期間
改訂内容の周知・各施設での影響範囲の確認。
2025年11月1日
新マスタ適用開始 / 薬局の受入準備完了
新マスタ(類型4)のコードが利用可能に。薬局は新コードでの処方箋を受け入れられるよう準備。
2025年11月1日 〜 2026年7月31日
経過措置期間(医療機関の切替期間)— 現在ここ
旧マスタ・新マスタの両方が利用可能。この間にシステム設定を切り替えてください。
2026年7月31日
旧マスタ廃止
類型3(旧コード)が使用不可に。この日までに新コードへの移行完了が必要。
2026年8月1日〜
新マスタのみで運用
旧コードを使用している場合、電子処方箋の記録・交換に支障が生じます。
補助金について: 日本病院薬剤師会の案内(2025年7月)によると、 本改訂に関する補助金の支給予定はありません。 各施設がシステムベンダーと連携し、自施設の予算で対応する必要があります。

7. 妥当性評価 — この改訂は十分か

改訂の内容を厚労省配布 Excel・JAMI 標準用法規格・JPFHIR CodeSystem・ 電子処方箋推進会議資料等の一次ソースで検証し、課題と評価をまとめました。

評価① 食事タイミング系の情報は保たれるか

観点検証結果
主要コードの存続 「朝食前」「朝食後」「起床時」「食直前」等の主要パターンは新マスタに標準コードとして残存
JPFHIR CodeSystem(202507版)で確認: 1011000100000000「1日1回朝食前 服用」、 1011000090000000「1日1回起床時 服用」、1012000190000000「1日2回起床時と朝食前 服用」等
投与タイミングフィールド 用法マスタレイアウト表の「投与タイミング」フィールド(項番14)は、新マスタ全1,803件で 「0: 不要」に設定。独立した構造化フィールドとしては使われなくなった。
※ 食事タイミング情報はコード名称自体(「朝食前」等)に埋め込まれる形で保持される。 適用ガイドコード使用時は用法補足レコード(用法補足区分5: 用法の続き)に記録。
国際標準との比較 HL7 FHIR R5 は Timing.repeat.when で食事タイミング(ACM=食前、PCM=食後、WAKE=起床時等)を 独立した構造要素として表現可能。日本の新マスタはコード名称への埋込み方式であり、二次利用・機械判定の面ではやや不利
評価: 概ね妥当 — 「食事タイミング情報の全面消失」ではなく、主要パターンはコードとして残存。 ただし構造化の観点では弱体化しており、例外的なケースは補足レコード・自由記載に依存する。 ビスホスホネート等の臨床上重要な食事タイミング指定は引き続き標準コードで表現可能。

評価② 注射・注入のカバレッジは足りているか

旧マスタ新マスタ
注射コード 393件(ダミー率 46.8%) 565件(全件標準コード)
注入コード 57件(ダミー率 98.2%) 28件(全件標準コード)
特徴 テンプレートコード(○回)が中心。投与方法の区別なし ワンショット/点滴/持続投与、院内/在宅の場面区別あり

旧マスタの注射・注入コードは全件が類型3(削除)。 新マスタでは注射が 393→565 件に増加し、投与方法と使用場面まで細分化された標準コードに全面刷新。 旧マスタに存在したダミー/テンプレートコードが解消され、コード品質は大幅に改善

評価: 大幅改善 — 注射領域は今回の改訂で最も改善された分野。 ただし旧コードからの移行作業(全件再マッピング)は各施設で必要。 学術文献(JAMI 2024年春季学術大会)でも HS027 標準への対応は「課題」として報告されており、 注射の標準化は業界全体で進行中のテーマ。

評価③ 経過措置期間は十分か

項目状況
切替期間 2025年11月〜2026年7月末 = 9ヶ月間
導入率(2025年9月時点) 全体: 35.3%(75,332施設)
病院 15.3% / 医科診療所 22.1% / 薬局 85.5%
出典: 第5回電子処方箋推進会議資料(令和7年9月29日)
主要ベンダー対応 富士通 Japan: 対応済み(2025年7月末時点)
NEC: 2026年3月対応予定(移行期間の折り返し地点)
病院向け約5,600施設、医科診療所向け約67,000施設のベンダーを厚労省が確認
移行中の仕様更新 2026年3月25日: 電子処方箋システムの基本機能更新
2026年3月26日: システムベンダ向け技術解説書更新
→ 移行期間の真っ只中に周辺仕様が変更されている
補助金 電子処方箋導入の補助は令和8年9月まで延長(ICT基金)。
ただし用法マスタ切替に特化した補助は存在しない
評価: 対象施設数を踏まえると現実的だが、個々の施設にとっては余裕がない — 病院の導入率は15.3%(約1,200施設)であり、実際に移行作業が必要な施設数は限定的。 導入率が低いからこそ9ヶ月で対応可能という判断は合理的であり、 仮に導入率が50%超であればベンダーのサポート負荷も大幅に増え、より長期間が必要になる。 ただし、NEC等の主要ベンダー対応完了が2026年3月(残4ヶ月)であること、 移行期間中にも周辺仕様が更新されていることから、 個々の施設にとってはベンダー対応を待ってから着手すると時間が限られる。 過去の医療情報標準化でも診療所で2ヶ月・病院で3〜6ヶ月の移行作業が通例であり、 ベンダー対応待ちの施設ほど早期の計画策定が重要

8. 対応のお願い

本改訂は、JAMI・日本薬剤師会・日本病院薬剤師会の提言を踏まえ、
電子処方箋を安全かつ正確に運用するための基盤整備です。
経過措置期間中に、以下のご対応をお願いいたします。

  1. 現状確認 — 自院のシステムで使用中の用法コードを確認
  2. 影響範囲の把握 — 削除対象の旧コード(類型3)が含まれていないかチェック
  3. 新コードへの切替 — 厚労省配布の対照表を参考に、新コードに設定変更
  4. 補足レコードの確認 — 汎用コードへの移行時に、補足情報が正しく記録されるかテスト
  5. 動作確認 — 切替後、電子処方箋の発行・受付が正常に行えることを確認
参考資料: 厚労省から配布されている Excel には、削除される旧コードごとに「どの新コードに移行すべきか」の 対照表が含まれています(「用法コード再設定に係る参考資料」シート)。
設定先はあくまで例示です。実際の設定は、各医療機関・薬局で使用している用法や処方内容に応じてご判断ください。